大腸がんコラム Vol.3「大腸ポリープはガンになるのか?」
今、日本人2人に1人ががんになるといわれています。2019年度のがんの統計によれば、生涯のうち、何らかのがんに罹患するリスクは男性で63.3%、女性で48.4%とされています1)。
また40歳を過ぎると、4人に1人は大腸にポリープができると言われています。
がんになったご家族や、ポリープをとったという家族がいる方も少なくないと思います。
自分の家系が、がん家系なのではないかと心配されている方も多いのではないでしょうか。
今回は大腸がんと大腸ポリープへの理解が深まり、次回からの行動に繋がるよう
- 大腸ポリープとは?
- ポリープの症状
- 大腸がんの遺伝
- ポリープが見つかったあと、次は何年後に大腸の検査を受ければよいか?
- 大腸がんは早期発見で90%以上が完治!
などについて解説します。
ぜひ最後まで読んで理解を深めてください。
大腸ポリープとは?
大腸の表面(最も浅い層)は粘膜でできています。
この粘膜層の一部がイボのように隆起してできたもののことを大腸ポリープといいます。
図 大腸壁の解剖図
(患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2014年版より転載)
大腸ポリープは腫瘍性のポリープとそれ以外(非腫瘍性)のものに分けられます。
大腸がんになる可能性があるものは腫瘍性ポリープである「腺腫」です。
図 腺腫性ポリープの内視鏡画像と大腸CT画像
大腸がんには、正常な粘膜から生じた腺腫が悪性化してがんになる場合と、腺腫の状態を経ずに一気にがんになる場合とがありますが、腺腫が大腸がんになるまでにはおよそ5~10年かかるといわれています。
腺腫が大腸がんになる前に、ポリープの間に取ってしまうことで大腸がんは予防することができます。
またポリープを取った場合には、切除したポリープがどういうポリープであったかを手術を行った医療機関に尋ねておくことが重要です。
「腫瘍か非腫瘍か」というのは極めて重要で、基本的に腫瘍性のポリープでなければ癌化はしません。
そのため腫瘍性ポリープであったかどうか、「高リスクなポリープ」であったかどうかは将来的な発がんリスクを予測する意味でも重要です。
少し難しい話になりますが、腺腫には管状腺腫と絨毛腺腫の2種類があります。通常、腺腫の90%以上は管状腺腫に該当しますが、まれに絨毛腺腫であることがあります。
この絨毛腺腫は管状腺腫に比べ高リスクなポリープです。
そのほか、サイズが10mm以上の腺腫や高異型度の腺腫が高リスクなポリープであるといわれています2)。
ポリープの症状
大腸ポリープはほとんどの場合、自覚症状はありません。
とくに小さいポリープの場合、まったくの無症状であることがほとんどです。
そのため大腸がんになる可能性のあるポリープを早期に見つけるためには、検査を受けることが重要です。
大腸がん検診として広く行われている便潜血検査は、大腸がんや大腸ポリープが微小な出血を伴うことを利用し、肉眼では分からないような出血をとらえることができる検査です。
便潜血検査で2日間の便を調べて1日でも陽性と判定されれば、一般に内視鏡による精密検査を行います。
便潜血検査は、経年で検査を行うことで、進行がんであれば高い感度でがんを発見することができるとされていますが、ポリープについての感度は約10~50%程度(報告によってばらつきがあります)でかなり低いといわれています。
そのためポリープをより早期に見つけるために、米国予防医学専門委員会(USPSTF)では10年に一度の大腸内視鏡検査、もしくは5年に一度の大腸CT検査を推奨しており、当院では定期的な大腸CT検査を推奨しています。3)
大腸がんの遺伝
図 遺伝性大腸がんの割合
生まれながらにある遺伝子に異常があり、大腸がんが発生することがあります。これを遺伝性大腸がんと言います。
遺伝性大腸がんの頻度は全大腸がんの約5%程度で、子に高頻度で大腸がんが発生します。
そのほか原因は不明ですが、全大腸がんの約25%では血縁者(親・兄弟姉妹・叔父・叔母・甥・姪など)に複数の大腸がんが認められ、これは家族集積性大腸がんと呼ばれます。
遺伝性大腸がんは
①若年で発症しやすい、②大腸がんを繰り返し発症しやすい、③大腸がん以外の悪性腫瘍も発症しやすい、などの特徴があります。
50%の確率で親から子へと遺伝子異常が受け継がれていく優性遺伝の場合が多く、大腸がんになるリスクは50%に満たないものからほぼ100%のものまで疾患によって様々です。
血縁者にこのような特徴を持つ方がいる場合は、若い時から定期的な精密検査が必要です。
遺伝性大腸がんの代表的な疾患
①家族性大腸腺腫症(familial adeonomatous polyposis: FAP)
家族性大腸腺腫症は大腸にポリープを100個以上認める遺伝性の疾患です。親から子どもへ遺伝し大腸がんを発症する確率は50%です。
②リンチ症候群(hereditary non-polyposis colorectal cancer: HNPCC)
リンチ症候群は大腸がんだけでなく、子宮内膜、卵巣、胃、小腸、肝胆道系、腎盂・尿管がんなどの発症リスクが高まる遺伝性の疾患です。生涯で、大腸がんを発症する確率は28~75%(女性は24~52%)です。
ポリープが見つかったあと、次は何年後に大腸の検査を受ければよいか?
日本にはまだ明確なガイドラインなどはなく、施設などによって対応が異なると思われます
当院では一度ポリープの切除を行った方に対し、下記のような経過観察の提案をしています。
2.腫瘍性ポリープを切除した場合は1〜3年以内の大腸内視鏡検査
3.ポリープがない場合や非腫瘍性ポリープの場合は3~5年以内の大腸CT検査
ポリープを一度切除した方は、再発や見逃しのリスクを考慮し、短い期間での大腸内視鏡検査での経過観察を提案しています。
一方、大腸の精密検査等でポリープが見られなかった方や、ポリープを切除してから一定の期間(2~3年)新しいポリープが見つからなかった方には、身体的な負担の少ない大腸CT検査を提案しています。
大腸CT検査は米国予防医学専門委員会(USPSTF)でも一次スクリーニング検査として推奨があり、6mm以上の大腸ポリープに対する検出精度も大腸内視鏡検査と同等だと言われています。
大腸がんは早期発見で90%以上が完治!
大腸がんは食生活の欧米化により増加傾向にあります。
現在、日本人の部位別がん死亡率において大腸がんは女性が1位、男性が3位です。毎年10万人ほどが大腸がんに罹患し、そのうち約4万人が死亡しているというデータもあります。
早期の大腸がんや大腸ポリープにはほとんど症状がないことから、大腸がんが見つかるころにはがんが進行してしまっていることが多いのではないかと考えられています。
早期の大腸がんや大腸ポリープを早期発見、早期治療を行うためには定期的な検査が重要です。
40歳以上の人は最低でも便潜血検査を年に1回は受けることをおすすめします。50歳になったら一度は人間ドックなどで大腸の精密検査を受けましょう。
その後は異常はなくても3~5年に一度は定期的に大腸の検査を受けることをおすすめします。
もし、家族に大腸がんを発症した人がいる場合は、家族が発症したときの年齢よりも10年早く精密検査を受け始めることをおすすめします。
大腸CT検査について詳しく知りたい方は
1):がんの統計2019年度版
2):Winawer SJ and Zauber AG. The advanced adenoma as the primary target of screening. Gastrointest Endosc Clin N Am. 2002; 12: 1-9
3): 大腸がん検診の推奨グレード(米国予防医学専門委員会:USPSTF)[2016年6月 現在最新版]