糖尿病とは 健診会 東京メディカルクリニック

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糖尿病とは

日本の糖尿病患者数は、生活習慣と社会環境の変化に伴って急速に増加しています。
糖尿病は一度発症すると完全に治るということがないため、生涯を通してうまく付き合っていくことが大切となります。
放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こし、末期には失明したり透析治療が必要となることがあります。
さらに、糖尿病は脳卒中、虚血性心疾患などの心血管疾患の発症・進展を促進することも知られています。
これらの合併症は患者さんの生活の質を著しく低下させるのみでなく、医療経済的にも大きな負担を社会に強いており、今後も社会の高齢化にしたがって増大するものと考えられています。
正常高値、境界型と診断された時はもちろん、糖尿病になる前から早期に生活習慣改善に取り組むことが重要です。糖尿病のことをよく知り、皆さまの健康管理に役立てて頂ければ幸いです。

1.糖尿病の疫学

1)糖尿病患者数の状況

2018(平成28)年国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる人」は約1000万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」約1000万人を合わせると約2000万人であり、1997(平成9)年の調査と比較すると21年間で約630万人の増加がみられます(図1)。

図1「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数の年次推移 (20 歳以上、男女計)(平成9年、14年、19年、24年、28年)

図1「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数の年次推移 (20 歳以上、男女計)(平成9年、14 年、19 年、24 年、28 年)

(平成28年国民健康・栄養調査結果1)より)

一方で、年齢が高い層で割合が高いことも分かっています(表1)。加齢とともに耐糖能は低下し、糖尿病の頻度は増加します。日本の糖尿病有病率の増加は高齢化が主因と考察できます。

表1年齢階級別「糖尿病が強く疑われる人」及び「糖尿病の可能性が否定できない人」の推計人数(2016年)

表1年齢階級別「糖尿病が強く疑われる人」及び「糖尿病の可能性が否定できない人」の推計人数(2016年)

(単位は万人)

2)糖尿病増加の社会的背景

戦後の劇的な社会構造の変化は、個人のライフスタイルを大きく変容させ、糖尿病増加の重要な原因となっていると考えられています。

①戦後の食を取り巻く社会環境の変化

国民一人当たり平均総エネルギー摂取量は、1970年代前半にピークを迎え、その後はおおむね減少傾向を示しています(図2)。昭和40年代(1965~74年)の高度経済成長期の所得の増加に伴う食生活の洋風化食スタイルの変化によって量的に拡大していき、1975(S50)には2226kcalになり、食生活は「飽食」とよばれるほどの豊かさを迎えることとなりました。すかいらーく、ロイヤルホスト、ケンタッキー・フライド・チキン、マクドナルドの1号店の開店はいずれも1970(昭和45)年、1971(昭和46)年でした。
質的な面からエネルギー産生栄養素(三大栄養素)の摂取量と摂取比率の変化を見ると、1950年代には炭水化物に偏っていた摂取量と摂取比率は、炭水化物が次第に減少し、脂質が増加していることが分かります3)。

図2. PFC比摂取量の経年変化(中谷朋昭ほか、日本人の栄養素摂取バランスに関する時系列分析、フードシステム研究第24巻2号、2017 3)より)

図2. PFC比摂取量の経年変化(中谷朋昭ほか、日本人の栄養素摂取バランスに関する時系列分析、フードシステム研究第24巻2号、2017 3)より)

1970年前後を境にして、米の摂取量は大きく減少しており、乳類、肉類の摂取量は、さらに増加傾向を示し、魚介類の摂取量は1995年以降、減少に転じています4)。これらは、一般的に食の欧米化と言われており、高度経済成長期とその後では、食事の内容が大きく変化していることを物語っています。表2から、日本は食の欧米化が進み、フランスやアメリカの摂取比率に近づいていくような変化をしていることが分かります。

表2日本と諸外国のPFC摂取比率の比較

表2日本と諸外国のPFC摂取比率の比較

資料:厚生労働省により行われた健康日本221(第二次)分析評価事業で公表されているデータを基に作成。
(中谷朋昭ほか、日本人の栄養素摂取バランスに関する時系列分析、フードシステム研究第24巻2号、20173)より)

脂質の摂取量が多くなることはなぜよくないのか?

魚が減り、肉や乳製品の摂取量が多くなったことで飽和脂肪酸の比率が高くなったことが特に問題になります。肉や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸は、LDLコレステロールを増加させ動脈硬化の誘因になります。糖尿病は血糖だけでなく、動脈硬化症予防の観点からコレステロールの管理も重要です。糖尿病の食事管理では、食事に含まれる脂質の量と質にも配慮が必要です。
脂質の全体を抑えるために油を多く使った揚げ物料理は頻度を少なくするようにしましょう。また、脂質のは、肉や乳製品(バター、牛乳)、卵に偏らず、魚、大豆・大豆製品(納豆、豆腐など)からもたんぱく質をとるようにすることによって改善します。

②交通機関が発達したことは運動不足を招いた

自動車検査登録情報協会に昭和41(1966)年からの自動車保有台数推移のデータがありますが、現在(令和3年3月末)まで増加傾向にあります。交通手段が発達したことは私たちに便利な生活をもたらしましたが、身体活動量の低下(=エネルギー消費量の低下)、筋肉量低下(=グルコースの消費器官の減少)による肥満の助長というデメリットが発生しました。

表3 糖尿病患者数の増加と社会的要因5)

表3 糖尿病患者数の増加と社会的要因5)
まとめ

「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数の年次推移、糖尿病の総患者数、コンビニの店舗数、一人世帯の割合、外食産業の市場規模、自動車保有台数の推移、肥満者数の推移をみると、1970年以降、どれも増加傾向にあります(表3)。日本における2型糖尿病の増加は、戦後の食を取り巻く社会環境の変化に起因しています。エネルギー過多(食べ過ぎ)エネルギー消費量の減少(運動不足)肥満を引き起こします。そして、肥満=内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性を引き起こし糖尿病発症の主要因となります。また、食生活の欧米化(魚が減り、肉・乳製品が増えたことによる飽和脂肪酸やコレステロールの増加)は動脈硬化症発症のリスク因子になります。糖尿病を予防するためには、総エネルギーの適正化、動物性脂肪に偏らないこと、日常的に歩く機会をふやすなど運動不足を回避することがポイントといえます。

2.正常高値、境界型糖尿病と言われたら生活習慣全体を見直しましょう

1)2型糖尿病の予防

糖尿病ケアの目的は、糖尿病患者さんに起こりうる数多くの合併症を予防することにより、非糖尿病患者さんと変わらない健康寿命を全うすることです。しかし、そもそも糖尿病にならなければ合併症は起こらず、通院や薬も不要で医療費もかからないわけです。まず、糖尿病そのものの予防(=一次予防)をしましょう。

糖尿病予防

2)どんな人が糖尿病になりやすいのか?

①生活習慣と2型糖尿病の発症の関係6)7)

2型糖尿病の予防と発症には生活習慣が大きく関わっています。

生活習慣と2型糖尿病の発症の関係
喫煙と糖尿病リスク

喫煙はがんや循環器疾患のリスクだけでなく、2型糖尿病のリスクも上昇させることが2014年の米国Surgeon General‘s Reportで報告されています。この報告では、46編のコホート研究をメタ解析し、能動喫煙者は非喫煙者と比較して2型糖尿病のリスクが高いという結果でした。

飲酒と糖尿病リスク

飲酒習慣と2型糖尿病リスクとの関連についても多くの研究がなされています。38編のコホート研究のメタ解析において、女性では1日あたり約20gのエタノール摂取で糖尿病リスクが低下し、男性ではエタノール摂取量が増えるにつれて糖尿病リスクが上昇する傾向がみられました。

運動と糖尿病リスク

耐糖能異常などの2型糖尿病発症のハイリスク者において、運動習慣はインスリン抵抗性の改善などを介してリスクを改善することが示されています。たとえば、大慶研究というランダム化比較試験では運動介入において食事介入と同等以上の2型糖尿病発症リスクの減少が認められました。

②糖尿病予防には適正体重を長期に保つことが重要6)

肥満はもっとも重要な2型糖尿病発症のリスク因子です。ただし、必ずしも肥満の定義BMI25以上を満たす人のみが高リスクであるわけではありません。
成人以降の体重増加も、将来の糖尿病発症リスク増加と関連することが示されています。図2の結果より、比較的わずかな体重増加幅(10年間でBMIが1増加程度)でも、そのまま7~8年維持されると糖尿病発症リスクが上昇7)することが示唆されています。つまり、糖尿病予防には若年期から長期の体重増加抑制が必要です

図2日本人男性人間ドック受検者における糖尿病発症前のBMIの長期変化

図2日本人男性人間ドック受検者における糖尿病発症前のBMIの長期変化

(HeianzaY,et al, J Diabetes Investig 2015;6(3):289-94 6)8)より)

一方、これに対応する糖尿病発症前の空腹時血糖とHbA1cの長期変化(図3)をみると、いずれも発症者では、非発症者と比較して発症10年前から有意に上昇しており、その後、糖尿病発症直前に急上昇がみられ発症に至っていました。

図3日本人人間ドック受検者における糖尿病発症前の空腹時血糖とHbA1cの長期変化

図2日本人男性人間ドック受検者における糖尿病発症前のBMIの長期変化

(HeianzaY,et al, Diabetes Care2012;35(5):1050-26)9)より)

これらの結果を合わせると、軽度でも体重増加がみられた者HbA1cが5.6%を超えた者は糖尿病予防のための生活習慣改善を始めた方がよいと考察できます。

3)正常高値、境界型の糖尿病発症リスクはどのくらい?

健診における糖尿病未発症者を米国の「前糖尿病」の定義に用いられる①空腹時血糖値100~125mg/dlと②HbA1c5.7~6.7%という2つの基準で分類すると将来的に糖尿病発症リスクが高い者を抽出することができます。
5年間の糖尿病発症リスクは①、②いずれの基準にも当てはまらない人(=99mg/dl以下かつ5.6%未満)と比較すると、①か②かのどちらか片方のみ当てはまる人、①と②の両方当てはまる人では、それぞれ約6倍、約32倍にも達していました(図4)。
「正常値より少し高いだけ」と安易に考えず、生活習慣改善は必須と考察できます。

図4日本人人間ドック受検者のうち非糖尿病者におけるHbA1c5.7~6.4%および空腹時血糖値100~125mg/dl(IFG)、およびその両方を満たした場合の累積糖尿病発症率

図4日本人人間ドック受検者のうち非糖尿病者におけるHbA1c5.7~6.4%および空腹時血糖値100~125mg/dl(IFG)、およびその両方を満たした場合の累積糖尿病発症率

(Heianza Y,et al. Lancet 2011;378(9786):147-556)10)より)

4)糖尿病の発症危険因子と生活習慣の予防対策まとめ

図5糖尿病の発症危険因子と生活習慣の予防対策

図5糖尿病の発症危険因子と生活習慣の予防対策

明らかになりつつある2型糖尿病の危険因子は多岐にわたっており、生活習慣全体の見直しが必要です。
糖尿病を、血糖・血圧・脂質の全体でコントロールして治療しようという動向は世界的なもので「糖尿病は血糖値のみに目が向きがちですが、血糖だけでなくコレステロール、血圧、肥満・メタボリックシンドロームを改善することも重要である」と、米国心臓学会(AHA)は述べています11)。加えて「1つを修正すると、他の問題を修正できる可能性がある」とも述べています11)。

食事と運動の併用の重要性

特に糖尿病などの慢性疾患治療において食事療法と運動療法は両方必要です。肥満を有する場合は、食事療法と運動療法を組み合わせることが全身のインスリン抵抗性(インスリンの効きやすさ)を改善させるためです。食事療法でエネルギー摂取量を制限するとともに、運動療法を実施することで、筋肉量を維持しつつ、体脂肪量を選択的に減量させます。食事療法単独の減量では、安静による筋力・筋肉量の低下が生じ、インスリン抵抗性改善効果が減弱すると考えられます。
肥満を避けるために、食事と運動のそれぞれに最低限満たすべき基準が存在するかを検討した研究の結果6)12)をみると、1日平均エネルギー摂取量は男性2000kcal、女性1800kcal未満、および週当たり平均身体活動量は男性約10Mets時、女性8Mets時以上を満たす必要があることが示されました。8~10Mets時は、だいたい3時間の歩行に相当し、1日あたりでは30分程度、速歩なら1日あたり20分程度となります。この結果は糖尿病発症後の患者さんのデータですが、発症前であっても参考にできます。

Mets時   =  運動強度Mets × 時間(h)
9Mets時=普通歩行の運動強度3.0Mets × 3h
8.6Mets時 =  速歩の運動強度4.3Mets × 2h

厚生労働省がとりまとめた健康づくりのための身体活動基準2013では、18~64歳の身体活動(生活活動・運動)の基準を、「普通歩行以上の身体活動(掃除などを含めた日常の活動)を毎日60分、普通歩行以上の運動を毎週60分」とし、運動習慣をもつことを推奨しています。運動習慣がない方は、こまめに掃除をすることや、今よりまず10分多く歩くことから始めてみるとよいでしょう。

糖尿病関連ページ

参考文献

1.平成28年国民健康・栄養調査結果
2.厚生労働省、糖尿病患者数の状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/18/backdata/01-01-02-08.html
3.中谷朋昭ほか、日本人の栄養素摂取バランスに関する時系列分析、フードシステム研究第24巻2号、2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsr/24/2/24_82/_pdf/-char/ja
4.日本臨床栄養協会紙Vol.36No.42021
5.糖尿病学の変遷を見つめて-日本糖尿病学会50年の歴史-
6.森保道、臨床栄養臨時増刊糖尿病エキスパートブック、医歯薬出版、2020
7.臨床栄養2020年4月号、医歯薬出版、2020
8.Heianza Y, Arase Y,Kodama S,et al.Trajectory of body mass index before the development of type2 diabetes in Japanese men :Toranomon Hospital Health Management Center Study 15.J Diabetes Investig 2015;6(3):202-14.
9.Heianza Y,Arase Y,Fujihara K,et al. Longitudinal trajectories of HbA1c and fasting plasma glucose levels during the development of type 2 diabetes: the Toranomon Hospital Health Management Center Study 7(TOPICS 7). Diabetes Care 2012:35(5):1050-2.
10.Heianza Y,Hara S, Arase Y, et al. HbA1c5.7-6.4% and impaired fasting plasma glucose for diagnosis of prediabetes and risk of progression to diabetes in Japan (TOPICS 3):a longitudinal cohort study. Lancet 2011;378(9786):147-55.
11.米国心臓学会AHA2018
https://www.heart.org/en/news/2018/11/19/have-diabetes-make-sure-to-manage-cholesterol-too
12.日本臨床栄養協会紙Vol.36No.42021
日本人の循環器疾患と栄養・食生活–これまでの取り組みと今後の展開-
13.清水みゆき、食料経済フードシステムからみた食料問題、オーム社、2016

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