認知症/軽度認知障害(MCI)
はじめに
高齢化社会が進む中、認知症は多くの人にとって身近な問題となっています。
しかし、認知症や軽度認知障害(MCI)について正しく理解している人はまだまだ少ないのが現状です。
当ページでは、認知症とはなにか、種類や症状、治療、予防法、そして軽度認知障害(MCI)について分かりやすく解説します。
認知症とは
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。
認知症の種類
ひとくちに認知症といっても、いくつか種類があります。
日本人に一番多い種類は「アルツハイマー型認知症」です、日本人の認知症患者の60-70%を占めているといわれております。
脳神経が変性して、脳の一部が萎縮していく過程でおきます。
ついで脳梗塞・脳出血などの脳血管障害によっておこる血管性認知症が多く、他にレビー小体型認知症などもあります。
複数種類の認知症を合併する場合もあります。
アルツハイマー型認知症
日本で一番多い種類で、認知症患者の60~70%を占めていると言われています。脳神経が変性して、脳の一部が萎縮していく過程でおきます。
血管性認知症
脳梗塞・脳出血などの脳血管障害によっておこる認知症です。
レビー小体型認知症
レビー小体と呼ばれる異常なタンパク質が脳に蓄積されることでおこる認知症です。
その他
上記以外にも、様々な種類の認知症があります。
認知症の症状
年齢を重ねることで、誰しも思い出したいことがすぐ思い出せなくなることがありますが、認知症によるもの忘れはこういった「加齢によるもの忘れ」とはまた違います。
物事の一部だけでなく、体験自体を忘れたり、もの忘れの自覚がなかったりする場合は、認知症の可能性があります。
「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違い(一例)
加齢によるもの忘れ | 認知症によるもの忘れ | |
---|---|---|
体験したこと | 一部を忘れる 例)朝ごはんのメニュー |
すべてを忘れている 例)朝ごはんを食べたこと自体 |
もの忘れの自覚 | ある | ない |
探し物について | (自分で)努力して見つけようとする | 誰かが盗ったなどど、他人のせいにすることがある |
日常生活への支障 | ない | ある |
症状の進行 | 極めて徐々にしか進行しない | 進行する |
政府広報オンライン
「もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン」(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html)より抜粋
加えて下記のような症状が見られます。
(1)記憶障害
新しいことを記憶できず、ついさっき聞いたことさえ思い出せなくなります。
病気が進行すると、以前覚えていたはずの記憶も失われていきます。
(2)見当識(けんとうしき)障害※
時間や季節感の感覚が薄れよりはじまり、迷子になったり遠くに歩いて行こうとしたりするようになります。
さらに進行すると、自分の年齢・家族等の生死に関する記憶がなくなります。
※見当識(けんとうしき):現在の年月や時刻、自分の所在など基本的な状況を把握すること
(3)理解・判断力の障害
思考スピードが低下し、考え分けることができなくなります。
具体的には、2つ以上のことが重なると話している相手が誰かわからなくなったりします。
また些細な変化やいつもと違うできごとで混乱してしまったり、倹約を心がけながら必要のない高額商品を購入したり、自動販売機や駅の自動改札・銀行ATMなどの前でまごついたりといった症状が見られます。
(4)実行機能障害
自分で計画を立てられない・予想外の変化に柔軟に対応できないなど、物事をスムーズに進められなくなります。
具体期には同じものを買ってきてしまう、料理を並行して進められないなどの症状が見られます。
(5)感情表現の変化
その場の状況がうまく認識できなくなるため、周りの人が予測しない、思いがけない感情の反応を示すようになります。
(6)行動・心理症状
本人の性格や環境・人間関係など複数要因が絡み合い、うつ状態や妄想といった心理面・行動面の症状も起こります。具体的には、抑うつ気味になったり、他人への物取られ妄想などがあたります。
認知症の治療と予防
認知症は現在根本的な治療法が見つかっておりません。
薬物療法によって進行を抑えることが基本になっています。
また、症状を抑えるために周囲のケアや環境調整、リハビリテーション等の非薬物療法も非常に重要です。
以下は、認知症の治療薬の主な種類です。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
脳内のアセチルコリンという神経伝達物質の分解を抑制することで、記憶力や判断力の低下を改善します。
NMDA受容体拮抗薬
脳内のグルタミン酸という神経伝達物質の働きを調節することで、認知機能の低下を改善します。
ドーパミンアゴニスト
脳内のドーパミンという神経伝達物質の働きを強化することで、行動障害や抑うつ症状を改善します。
薬物療法以外にも、以下のような非薬物療法も重要です。
認知機能リハビリテーション
記憶力や判断力などの認知機能を維持・改善するための訓練です。
介護支援
患者さんの日常生活を支えるための介護サービスです。
家族支援
患者さんの家族へのサポートや教育です。
認知症は現状根本的な治療法が見つかっていません。
そのため、認知症はなってから治療するのではなく、ならないように予防していくことがとても大切になります。
軽度認知障害(MCI)
実は認知症になる前には、軽度認知障害(MCI)といわれる段階があり、この軽度認知障害の段階もしくはそれ以前から認知症にならないように予防することがカギになってきます。
軽度認知障害は認知症予備軍ともいわれ、健康な状態と認知症の中間の状態で、認知症ではないものの、加齢に伴う物忘れよりも悪い状態が継続的に続く状態を指します。
<軽度認知障害(MCI)の特徴>
- 記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
- 日常生活動作は正常
- 全般的認知機能は正常
- 年齢や教育レベルでは説明できない記憶障害が存在する
- 認知症ではない
MCIの状態が5年ほど継続すると半数以上の人が認知症に移行すると言われています。
一方、MCIの段階で適切な予防を行うことで、認知症への移行を食い止めることもできます。
軽度認知障害(MCI)と診断された場合
もし軽度認知障害と診断された場合はどうすれば良いのでしょうか。
不安や戸惑いを感じる方も多いと思います。
しかし、軽度認知障害は早期発見・早期対策によって、進行を遅らせたり、改善したりすることが可能です。
軽度認知障害と診断されたら、以下のステップを踏むことをおすすめします。
1.医師と相談する
2.専門医による検査を受ける
3.生活習慣を見直す
4.家族や周囲の人に理解を求める
繰り返しになりますが、軽度認知障害の段階であれば、健常に戻れる可能性があります。
そのため、軽度認知障害の段階もしくは、それ以前の健常の段階からならないように予防することがとても大切になります。
認知症/軽度認知障害(MCI)を予防するためには
認知症のリスクを低減するため、推奨されるのは運動習慣を持つことです。
世界保健機関(WHO)では「身体活動」が認知機能正常の成人に対して認知症機能低下のリスクを低減し、特に65歳以上の成人に対して「週に150分(2時間30分)以上の中強度の有酸素運動、または週に75分(1時間15分)以上の高強度の有酸素運動などを行うこと」、「有酸素運動は1回につき、少なくとも10分以上続けること」を推奨しています。
中強度の有酸素運動には、歩行や軽い筋トレなど、高強度はランニングやクロールの水泳などが該当すると考えられます。
認知症は「脳の生活習慣病」と言われています。
生活習慣病というと主に消化器や循環器系の臓器の病気が思い浮かびますが、実は脳も生活習慣の影響を受けているのです。
高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病。
飲酒喫煙も認知症のリスク因子と考えられておりますので、普段から生活習慣病にならないような生活習慣を継続していただくことが、認知症の予防にもつながります。
認知症リスクの1つである軽度認知障害(MCI)。
軽度認知障害のリスクを低減する方法としても、日々の生活習慣の見直しが挙げられます。
認知症と同じく、日々の生活習慣が乱れることによって軽度認知障害になるリスクが高まります。
認知症テスト
日々の生活習慣が気になる方は是非チェックしてみましょう。
あなたはいくつ当てはまりますか?
Q1 記憶力・集中力が下がっている
□以前会った人の名前が思い出せない時がある
□物をどこに置いたかよく忘れる
□以前に比べて集中力が落ちた
Q2 ストレスを感じる事が多い
□仕事が大変である
□家庭内でストレスを感じる
□人間関係に不満がある
Q3 運動不足
□運動の習慣がない
□移動する時によく乗り物を利用する
□テレワークなどで運動しないことが増えた
Q4 睡眠不足・不眠
□睡眠不足である
□すぐに眠れない日がある
□夜中によく目が覚めてしまう
Q5 食生活の乱れ
□偏った食事になりがちだ
□よく食事を食べすぎてしまう
□塩分や糖分を摂りすぎてしまう
いくつ当てはまったでしょうか?
実はこれらは全て認知症のリスクになり得る生活習慣と言われています。
1つでも当てはまった人は、将来の認知症リスクが高い可能性も考えられます。
当院で行える認知症検査
当院では採血で、軽度認知障害(MCI)のリスクをスクリーニング出来る最新検査もご用意しておりますので、そちらで自分のリスクを事前に把握しておくことも予防のモチベーションになるかもしれません。
まとめ
認知症は誰もがなる可能性のある病気です。
しかし、早期発見・早期治療や予防策によって、認知症の進行を遅らせることは可能です。
このコラムを参考に、認知症について正しく理解し、自分や大切な人のために出来ることを考えていただければ幸いです。
認知症関連コラム
参考
日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017
厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html
政府広報オンライン「もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン」https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html
Ref: Petersen RC et al. Arch Neurol 2001
Bruscoli M.et al. “Is MCI really just early dementia? A systematic review of conversion studies.” Int Psychogeriatr. 2004 Jun;16(2):129-40.
Manly JJ. et al. “Frequency and course of mild cognitive impairment in a multiethnic community.” Ann Neurol. 2008 Apr;63(4):494-506.
認知症予防習慣
https://ninchishoyobo.com/
WHO「認知機能低下および認知症のリスク低減(Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia)のためのガイドライン」